ポリウレタン素材の衣料品等の経時劣化に関する調査研究

1 目的

ポリウレタンは使用しなくても、通常、製造から4〜5年で劣化し始め、弱くなるといわれている。劣化すると、表面のポリウレタンにひび割れやベトつき、はがれが生じ、強度が低下する。

このことは、専門家の間では一般的によく知られているが、消費者には購入時に知らされておらず、クリーニング等で劣化が表面化して初めて特性を知らされることが多い。

ポリウレタン素材の衣料品等に対する消費者の商品知識や意識、衣料品業界の考え方、表示の実態を調査し、ポリウレタンを使用した衣料品等のトラブルを防止する方策を検討する。

なお、この調査研究は当研究所のテスター養成講座修了生と共同で行った。

 

2 調査方法及び調査内容

(1) 調査対象および調査方法

ア.    消費者に対するアンケート調査(「伸縮性のある衣類や合成皮革に関する調査」)

・調査対象 女性 553人(一般消費者330人、大学生・短大生223人)

・調査時期 平成14年9〜10月     

・調査方法 留め置きおよび郵送法

・回収票  423票(回収率76.5%)

イ. アパレルメーカーに対するアンケート調査(「ポリウレタン樹脂を用いた合成皮    革・人工皮革など衣料品に関する調査」)

・調査対象 アパレルメーカー 427社

・調査時期 平成15年1〜2月

・調査方法 郵送法

・回収票  90票(回収率21.1%)

ウ.    大型販売店に対するアンケート調査(「ポリウレタン樹脂を用いた合成皮革・人        工皮革など衣料品の販売に関する調査」)

・調査対象 大型販売店  116店

・調査時期 平成15年2月

・調査方法 郵送法

・回収票  28票(回収率24.1%)

エ.    素材メーカーに対するアンケート調査(「ポリウレタン樹脂を用いた合成皮革・人工皮革など衣料用素材に関する調査」)

・調査対象 合成皮革・人工皮革の素材メーカー 34社

・調査時期 平成15年2月

・調査方法 郵送法

・回収票  9票(回収率26.5%)

オ.    販売店の縫製年月の表示に関する実態調査

・調査対象 販売店7店〔百貨店(4店)、量販店(2店)、生活協同組合(1店)〕

・調査時期 平成15年1月

・調査方法 フィールド調査

調査点数 衣料品74点〔ジャケット(32点)、コート(15点)、スカート(9点)、ジャンパー(8点)、パンツ(7点)、ベスト(2点)、セーター(1点)〕

 

 (2) 調査項目

調査項目

.消費者に対する調査

.アパレルメーカーに対する調査

.大型販売店に対する調査

.素材メーカーに対する調査

.ポリウレタン製品の劣化

(製品ごとの劣化経験および現象)

(苦情の有無、件数、経時劣化についての表示)

 

.ポリウレタン製品の劣化の知識

(劣化を知らない消費者が6割いたことに対する見解)

.2〜3年というポリウレタンの寿命の長さに対する意見

 

.ポリウレタンの耐用年数

 

.品質性能テストの有無

-

 

.取扱い上の注意

(実行と内容)

(表示と内容)

.縫製年月の表示

(見た経験の有無)

(表示の有無)

(製造年月の表示の有無)

.自由意見

(消費者、素材メーカー、クリーニング店に対する意見)

(消費者、素材メーカー、クリーニング店、アパレルメーカーに対する意見)

(消費者、クリーニング店、販売店、アパレルメーカーに対する意見)

 

3 結果

(1) ポリウレタンについて経時劣化を知らない消費者は6割

経時劣化の経験者は製品によって3割〜8割程度。

「ポリウレタンの寿命を知らなかった」と回答した消費者は、423人中、259人(61.2%)と6割程度であった。(図1)

一方、「ポリウレタン製品の経時劣化を経験したことがある」と回答したポリウレタン製品の所有者(消費者)は最も少ない「水着」で98人(30.0%)、最も多い「くつ下」では303人(79.5%)と、製品によって差がみられた。(図2)

合成皮革などを使用した「パンツ」や「防寒衣料」が劣化した経験者(それぞれ52人、99人)のうち劣化した原因が「わからない」と回答した人は「パンツ」21人(40.4%)、「防寒衣料」50人(50.5%)でポリウレタンの経時劣化が原因だとすることには気づいていないと思われる面もある。(図3)

 

 

(2) この1年間にポリウレタンの経時劣化に関する苦情があったアパレルメーカーは56%、苦情件数は1社当たり1〜28件。

アパレルメーカー(64社)では、この「1年間にポリウレタンの苦情があった」のは36社(56.3%)、苦情件数は1件〜28件で、平均5.6〜5.7件であった。(図4、表1)苦情原因は「衣料品の製造年月が古かった」が23社(63.9%)と最も多かった。(図5)

素材メーカー(9社)では「苦情があった」のは4社(44.4%)、苦情件数は1〜3件であった。(図6、図7)

販売店(26店)では「苦情があった」のは4社(15.4%)、苦情件数は1件〜数件と、アパレルメーカー、素材メーカーに比べ、苦情は少なかった。(図8、図9)

 

(3) ポリウレタンの経時劣化を消費者に情報提供をしているアパレルメーカーは半数以上あったが、表示内容は様々。

ポリウレタン製品が経時劣化することを「下げ札」や「縫い付けラベル」に表示しているアパレルメーカーは64社のうち35社(54.7%)と半数以上あった(図10)が、縫い付けラベルや下げ札を送付してきた32社中、経時劣化に関する表示をしていたのは28社。(表2)その内容は、単に経時劣化するだけのものから、具体的な劣化現象、劣化原因、劣化するまでの期間などを記載したものまで様々であった。(表2)

また、他の取扱い上の注意の中の一つとして並列して記載されたケースが多く、表示をよく読まないとわからないものが目立ち、消費者にはポリウレタンの経時劣化が理解されにくいと思われた。(表3)

なお、「表示はしていない」アパレルメーカーは20社(31.3%)と約1/3あった。(図10)

 

(4) 2〜3年というポリウレタン製品の寿命の長さについて消費者は「短い」、事業者は「そのようなもの」だと思い、認識にズレがある。

クリーニング業界ではポリウレタンコーティングの衣料品の寿命は製造後2〜3年としている。(クリーニング事故賠償基準でも、人造皮革の外衣でコーティング品の平均使用年数は2年、合成皮革は3年となっている。)

2〜3年というポリウレタン製品の寿命の長さについて「寿命が短いと思う」と回答した消費者は200人(47.3%)で半数近くを占めた。(図11)

一方、同じ質問に対して「そのようなものだと思う」回答した事業者が最も多く、アパレルメーカー(90社)では36社(40.0%)、販売店(28店)では13店(46.4%)、素材メーカー(9社)では5社(55.6%)と消費者と事業者には耐用年数のズレがみられた。(図12、図13、図14)

しかし、本調査で経時劣化に関する情報を記載した縫い付けラベルや下げ札を送付してきたアパレルメーカー28社のうち、耐用年数など、どの程度で、経時劣化をするかを表示していたのは16社で、「2〜3年」が5社(17.9%)と最も多く、「数年」まで様々であった。(表2)

 

(5) アパレルメーカーの耐用年数に関する試験の実施(把握)率は3.5〜29.8%と低い。

品質性能テスト結果を入手しているアパレルメーカーは57社(89.1%)を占めていたが、ポリウレタンの経時劣化に関して調べるための「はく離試験」17社(29.8%)、「ジャングル試験」4社(7.0%)、「もみ試験(アクロセローター法)」2社(3.5%)の実施(把握)率は低い。(図15)

着用や保管状態などにより耐用年数が異なる可能性があるが、耐用年数に関する品質性能テストの実施(把握)率の低さからみると、データに基づく根拠に乏しいと思われる。

 

(6) 取扱い上の注意表示をしているアパレルメーカーは7割程度だが、取扱いに注意している消費者は1/3程度であった。

アパレルメーカー(64社)は取扱い上の注意表示を「縫い付けラベルに表示している」が46社(71.9%)、「下げ札に表示している」が41社(64.1%)であった。(図16)

一方、ポリウレタンの取扱いに「気をつけている」消費者は423人中、157人(37.1%)で、年代が高くなるにつれ「気をつけている」割合が、多くなる傾向がみられ、特に、若い世代はポリウレタン繊維の基礎知識の不足傾向が強いと思われた。(図17)

 

(7) ポリウレタン樹脂を用いた衣料品に縫製年月を表示しているアパレルメーカーは27%、しかし、その表示をみた消費者は1割に満たなかった。今回実施した販売店調査では見当たらなかった。

平成11年3月にアパレル製品品質性能対策協議会がポリウレタンコーティングの衣料品に「縫製年月」を表記することを決めている。しかし、アパレルメーカーでは、ポリウレタン製品を製造している64社のうち「縫製年月を表示している」と回答したメーカーは17社(26.6%)、「表示をする予定である」2社(3.1%)で、「表示していない」が39社(60.9%)といまだに表示率は低い。(図18)

また、「縫製年月」の表記を見たことがある消費者は26人(6.1%)と1割にも満たなかった。(図19)

なお、販売店7店舗でポリウレタン樹脂を用いた合成皮革などの衣料品(外衣)74点の縫製年月表示の表示について調べたが、縫製年月の表示は1件も見当たらなかった。

縫製年月を表示しない理由は「特にない」が最も多かったものの、自由意見で「2年以上着用した製品をクレームとして取り上げてほしくない」などアパレルメーカーの根底には耐久性のクレームに対して否定的な意見も見受けられた。(図20)


4 まとめ

 

(1) ポリウレタン製品が経時劣化する原因として、@空気中の水分による加水分解A紫外線B酸化窒素ガスC熱D化学薬品(ドライ溶剤など)などが関与していることは各種試験データによって明らかになっている。

しかし、このことは消費者にはあまり知られていない。

 

(2) 今回の調査では、アパレルメーカーが送付してきた(32社)縫い付けラベルや下げ札のうち、「製造年(月)」「耐用年数」「経時劣化すること」を表記していたのはわずか3社であった。(表2)

 

(3)   また、これらの表示は単に、表示すればよいというのではなく、耐久性を予測できるデータに基づいた適切な表示が望まれるが、耐用年数に関するアパレルメーカーの試験実施率は低かった。

 

(4)   クリーニングトラブルを未然に防ぐためにも、消費者が購入前に、経時劣化や耐久性などの商品のデメリット情報を知ることは大きな意味があり、このような表示の普及が望まれる。

 

(5)   当調査結果を踏まえ、アパレル業界等に、「製造年(月)」「耐用年数」「経時劣化すること」などの表示の徹底を要望する。

 

(6) なお、消費者はせっかく貴重な情報が提供されても、表示を読まないと意味がない。このような「製造年(月)」「耐用年数」「経時劣化すること」などの注意表示をよく読み、素材のデメリット情報を学習する必要がある。

 

 

 

「補足説明」

【ポリウレタン樹脂の現状】

一般的に、ウレタン樹脂は使用する原料によって耐久性が大きく変化して、10年以上の耐用年数を示すものが多くあるといわれている。コストを度外視してウレタン樹脂の性能を追及していけば、現状ではポリカーボネート系無黄変型(水添MDI)ウレタン樹脂が最高レベルであるといわれている。

 

【ポリウレタン樹脂の耐久性】

耐久性と実際の耐用年数については、市場で定着しているジャングル試験1週間が、実際の1年に相当するとの考え方を適用するとすれば、概ね、次の耐用年数を有すると予想することができるとの報告がある。

 

ジャングル試験  人工汗液     もみ試験    耐用年数

          ジャングル試験  

4〜5週間後    6日後      異常なし   約4〜5年

8〜7週間後    10日後     異常なし   約7〜8年